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2020.01.12法律

時効になっても諦めない/油断しない

時効期間が経過すると、
権利は消滅するのか。

「お金を支払ってもらいたいが、
時効にかかっていないでしょうか?」      
というのは、頻繁に受ける相談の一つです。

お金を支払ってもらう権利があったとしても、                
何年も放っておくと、時効の期間が経過して、
請求できなくなることがあります。

民法という法律には、
「債権は、〇年間行使しないときは、時効によって消滅する」
と規定されています。

他方で、
民法の別の条文では、
「時効を本人が援用しなければ、
『時効によって権利が消滅した』という判決は出ない」
とされています。

この「時効の援用」の規定を、
どのように解釈すればいいのかは諸説あるのですが、
とりあえず
時効の期間が経過しても、権利は確定的には消滅せず、
本人が援用(主張)したときに、はじめて確定的に消滅する

と考えて頂いて、間違いはありません。

 

時効期間が経過していても
諦めない/油断しない

さらに、時効については、
判例上、重要なルールが定着しています。

それは、
支払義務者は、時効の期間が経過した後、
一部を支払ったり、返済の猶予を求めたりすれば、
その後に時効のことに気がついても、
時効による消滅は主張できない

というルールです。

そのため、
たとえ時効の期間が経過してしまったとしても、
「権利者」側は、まだ諦めるのは早く、
わずかでも支払ってもらったり、
相手から「返済を待ってください」
という言質をとったりすれば、
時効による消滅の主張を阻止することができます。

逆に、
時効の期間が経過したからといって、
「義務者」側は、油断してはならず、
請求を受けたときに、「時効を援用します」と主張して、
そのような主張をした証拠を残しておく必要があります。

 

消滅時効の期間
(民法の改正に注意!)

民法が改正され、2020年4月1日から施行になります。

契約によって発生する債権の場合は、

(1)2020年4月1日より前に
契約を締結した場合は、改正前の民法

(2)2020年4月1日より後に
契約を締結した場合は、新しい民法

によって、消滅時効の期間が決まることになります。

 

【改正前の民法】

債権の消滅時効期間は、
原則として10年

商行為によって生じた債権は、
原則として5年

さらに、例外として、
特定の職業毎に、
短期の時効期間が定められています。
以下は、一例です。
①飲食店の食事代は1年
②商品の売買代金は2年
③工事請負代金は3年

 

【新しい民法】

新しい民法では、
契約等による権利の時効期間について、
以下のように定められています。
(職業毎の短期消滅時効は、廃止されました)

① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
② 権利を行使することができる時から10年

契約を締結している場合、
債権者(権利者)は
権利を行使できることを知っているわけですから、
消滅時効の期間は、原則として、
一律「支払期日から5年」になった
と考えておくと、よいでしょう。

  

時効の進行を食い止めるには、
どうすればよいか。

時効は、支払期日から進行していきますが、
権利者は、時効の進行を中断させたり、
ゼロに戻したりして、
時効の進行を食い止めることができます。

時効の進行を食い止める主な制度としては、
以下のようなものがあります。

権利者は、権利が時効にかからないようにするために、
適宜、措置をとるように心がけてください。

 

① 裁判を起こす。

裁判を起こせば、時効の進行を止めることができます。

裁判で勝訴すれば、その判決が確定した時点から、
さらに10年間、権利の行使が可能になります。

② 強制執行、仮差押え・仮処分

③ 承認

「承認」とは、
義務者が権利を自認することです。

義務者が一部でも支払ったり、
返済の猶予を求めたりすると、
「承認」があったことになり、
時効の進行がリセットされ、
その時点から新たに時効が進行することになります。

④ 催告(≒請求書を送る)

時効期間の経過が迫っている場合は、
とりあえず催告(請求)をすれば、
その時から6か月を経過するまでの間は、
時効が完成することを食い止めることができます。

例えば、
「あと1カ月で時効が完成してしまう」
という日に請求をしておけば、
その日から6か月
(つまり、時効が完成する日から5カ月間)
は、時効が完成しないことになります。

⑤ 協議を行う旨の合意

民法の改正によって新設された制度です。

例えば、
貸主と借主の間で残高や返済方法について
協議をしているうちに、
時効の完成が間近に迫ってきたとします。

この場合、
借主から「承認」の協力が得られなければ、
貸主は、時効の進行を止めるだけの目的で、
裁判を起こさざるを得なくなります。

このような不都合を解消させるために、
新たな規定が設けられました。

具体的には、
権利について
協議を行う旨の合意が書面(または電磁的記録)
でされた
とき、
合意から1年を経過する時まで(※)、
時効は完成しない

とされました。

※ただし、
以下の㋐または㋑が上記より早い場合、
時効の完成が猶予されるのは、
その時までとなります。

㋐1年未満の協議期間が定められ、
その期間を経過した時

協議打ち切りの通知が書面でされ、
その通知の時から
6カ月を経過した時

(以上)